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  • 執筆者の写真舩生 好幸

タケダバスーンTWSの体験記

更新日:2023年5月25日

~ファゴットのウイングジョイントを「交換して」試奏する機会をいただきました


画像:一般的なファゴットのウイングジョイント
画像:一般的なファゴットのウイングジョイント

投稿:舩生好幸(ファゴット愛好家・研究家)2023.5.19


先日、都内は中野区にショールームを構える株式会社タケダバスーン様にお邪魔しました。


同社のブランド「Takeda Bassoon」には、プロフェッショナル向けから手の小さな子供たちにも使いやすいステューデントモデルまでラインナップ。さらには国内で唯一のコントラファゴット(ファゴットよりオクターブ低い、コントラバスと同様の音域の楽器)もあります。


2023年4月、タケダバスーン様よりTakeda Wing System(TWS)という、改良されたキーシステムを搭載したウイングジョイント(=ファゴットを構成するパーツの一部。テナージョイントとも呼びます。)がリリースされました。


〇TWSとは

このTWSの解説は、タケダバスーン様のHPより引用させていただきます。

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ヴィヴァルディやバッハの時代から数百年もの間、ファゴットはその構造をほぼ変更することなく製作され続けてきました。しかしながら、従来の構造はウイングジョイントのトーンホールを演奏者の手指の幅に合わせるために自然な息の流れを犠牲にしており、正確な音程の維持や小さな音での演奏に困難を強いてきました。


Takeda Bassoonはこの“息の流れの問題”に着目。ウイングジョイントのトーンホールの構造を改め、最も自然な息の流れを生み出すことにより、驚くほど演奏しやすい画期的なファゴット──Takeda Wing System[*]が誕生しました。


*特許取得済み(特許第6799866号)


従来のファゴットではリードによって影響されやすかったピアニシモやハイトーンの音も格段に出しやすくなり、これまでにないスムーズな演奏感にきっと多くの方が驚かれるでしょう。


(出典「What is Takeda Wing System?」:https://www.takeda-bassoon.com/tws )

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〇TWSを私の楽器でも試すことに

応対してくださった竹田社長によりますと、TWSは、これまでにリリースされたタケダバスーン様の楽器であれば、そのウイングジョイントを交換して使えるそうですが、他社のファゴットに使える場合も多いとのことでした。


当日、私は自分の楽器(モーレンハウエル・5ピース)を持参しておりました。

これまでTWSをモーレンハウエルで試したことはなかったそうですが、私の楽器のソケットの直径などを確認いただいた結果、接続できることが分かり、急遽、モーレンハウエルにTWSを組み合わせて試奏させていただくことになりました。


〇試奏した印象

モーレンハウエルのウイングジョイントをTWSに置き替えたところ、ボーカルとオクターブキーの接点が少しだけずれ気味でしたが、試奏にはあまり支障ありませんでした。


通常の楽器では左手の中指(D)と薬指(C)で押さえるトーンホールが、TWSではカバードキーになりますが、感触や操作性も自然でした。


試奏前、ウイングジョイントを別の製品に置き替えたら音程やバランスがおかしくなるかも、と思いましたが杞憂でした。音程もとりやすく、音量・音色のコントロールもしやすい印象でした。


TWSを組み込んで試奏して一番印象的だったことは、楽器の音色が力強い方向に変化し、ボリューム感が増すことでした。


モーレンハウエルの音のイメージはやや細身で、色にたとえると白色や無色透明という感じですが、TWSを組み込むとオレンジ色と言いますか暖色系の、力強い響きに変わりました。


また、このモーレンハウエルは、もともとテノール音域の音抜けは良い方ですが、TWSを組み込むと、さらに音抜けやレスポンスが良くなり、息が効率よく音に変換される印象でした。


途中で何度か本来のウイングジョイントに戻してみましたが、TWSに交換することで、明らかに楽器の性格が変わることが一層明確になりました。

この変化はボーカルを交換する以上に大きなものでした。


〇当日伺ったお話より

竹田社長によれば、ヘッケルとピュヒナーのファゴットのパーツを組み合わせるなど、別メーカー間の組み合わせを試す演奏家の方は以前からいらっしゃるとのことでした。


ファゴットの場合、演奏に合わせてボーカルを交換することは普通ですが、TWSによって、「フルートの頭部管を交換するように」テナージョイントを交換して音色や感触を変えて演奏できる、という、新しい選択肢が増えることになりそうです。


またTWSのキーシステムは、例えばリムスキー=コルサコフの交響組曲「シェヘラザード」第2楽章に出てくるファゴットの大ソロの難しい指使いも容易になるとご説明いただきました。

TWSは、フィンガリングに関しても、これまで困難だった楽曲の演奏を容易にできる可能性を秘めている様子です。


TWSは引き続き改良を進め、適応可能な機種も拡げてゆくとのことですので期待したいです。


TWS以外にも目を転じると、Takeda Bassoonのラインナップは現在「ショートカットタイプの4ピース」が標準になっているそうですが、このメリットは、通常の4ピースよりも収納ケースをコンパクトにできることです。


近年、従来タイプの楽器ケースでは航空機の機内持ち込みが断られる場合も出てきているそうですが、コンパクトなショートカットタイプなら機内に持ち込めるとのことでした。


〇ファゴットの進化を期待しています

私達ファゴット奏者は、日頃楽器の弱点や問題点を認識しながらも、「ファゴットとはそういうもの」と諦めざるを得ない場面が、他の管楽器に比べて多いのでは、と、個人的には感じています。


確かに1990年代以降、ファゴットの品質や性能は格段に良くなり、演奏中に音程で苦労する場面はかなり減りましたし、音量も豊かになってきていると思います。ですが、


依然ファゴットは、テノール音域は気を抜くと音程が下がりやすく、ピアニシモでの発音が難しく、指使いは不合理で運動能力が高いとは言えず、「もっと音量を」と求められる場面もまだまだ多いなど、奏者の苦労が大きな楽器であろうと思います。


しかし、TWSをはじめファゴットの弱点や問題点にメスを入れる取り組みが今後一層促進され、クラリネットやサックスなど他の管楽器グループに追いつけるよう進化が加速するなら、ファゴットの未来は明るい。そう感じる機会となりました。


(Primary-f/向実庵 代表)


※本投稿は、筆者・舩生好幸の理解に基づいており、文責は筆者にございます。



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表紙イメージ「デイリートレーニング集」
表紙イメージ「デイリートレーニング集」

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