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執筆者の写真舩生 好幸

ベテランになっても、ロングトーン練習、とても大切です

更新日:2023年12月7日

~年齢に負けずに楽器を演奏し続けるための体力維持や増進の方法です


投稿:舩生好幸(ファゴット愛好家・研究家)2023.8.20

(更新:2023.12.7)


木管楽器にロングトーンは重要ではない、と思っている奏者の方も、中にはおられるかもしれません。


ですが、長年の経験から、ファゴット(Fg)については大変重要な練習メニューであると考えています。

Fg奏者の日課練習(個人練習)で、まず第一に行うべきはロングトーンだ、とも思っています。


〇Fgという楽器の固有の事情

Fgは3オクターブ半の音域のうち、下2オクターブ程は比較的楽に音が出ます。


しかし、その上の1オクターブ半の音域(いわゆるテノール音域あたり)に差し掛かると、下の2オクターブを演奏する場合よりも腹圧を高め、息の支えをしっかりとしたうえで発音・演奏する必要があります。そうしないと音程がぶら下がったり、或いは高すぎたり、安定しません。


テノール音域に限って言えば、Fgはオーボエと大差ない程度に負荷の大きな「キツイ楽器」であると思います。

(←私、オーボエも持っており一時期結構熱心に練習しました。それに基づく個人的な感想です。)


なので、オーケストラの1番奏者やソロ演奏などでテノール音域を自由に、表情豊かに演奏できるために、Fg奏者は楽器の負荷に耐えられる体力を、普段から養っておく必要があると思います。

そのため、まずは呼吸筋をロングトーン練習でトレーニングする、という次第です。


〇ロングトーン練習のメリット

全音域のロングトーンを練習することで、

・呼吸筋を演奏に耐えられるよう鍛える

・高音域や低音域が登場する楽曲の演奏に普段から備える

・楽器を身体になじませる

・楽器が持つ音の美しさや豊かさを全音域にわたって引き出す

ことができると思います。


さらには、

・新しい指使いもロングトーン練習中に覚えることができる

・ロングトーン練習時にチューナーを併用することで、正しい音程感覚が身につく

といったメリットもあると思います。


もう一つ、忘れてはいけないのは、

・年齢に負けずに楽器を演奏し続けるための体力維持や増進の方法である

という点です。


〇練習の際のポイント


私の練習方法を例にご説明しますと、

一つの音に対し、メトロノームで「♩=60」として、8拍を一単位に、楽器がよい音色で、十分に鳴っている音量(mf程度のダイナミクス)で、最低音B♭から最高音域まで半音階も含めてすべての音を鳴らします。


呼吸筋に十分に負荷をかけるためには、ある程度長めに、夏であれば汗をかくぐらいに練習するのがいいと思います。


個人的には1つの音を「♩=60」で12拍~16拍程度さらっています。

最低音のB♭から始めてHi-DもしくはHi-E♭までさらうと、途中休みながらで15~20分程かかります。結構疲れますし、夏は汗だくになります。


でも、その分、呼吸筋に必要な負荷をかけることができます。


(補足:体調が悪いときに無理に負荷のかかる練習をすると酸欠などに陥る場合があります。そうならぬよう、ご自身の体調に合わせて練習しましょう。)


さらに、ロングトーン練習時にチューナーを併用することで、正しい音程感覚を身につけることができます。

自分の音がよく聞こえる個人練習の中でチューナーで確認することで、合奏の中でメーターを見ている時よりもはるかに効率よく音程感覚を養うことができると思います。


〇最高音域はどこまでさらうか

ここで最高音域はどこまで必要なのか、ですが、これは奏者の習熟度や何を目指しているかによっても変わります。


*ベテランの奏者、経験者

オーケストラの1番奏者を務める、ある程度熟達した奏者なら、Hi-Dもしくはさらに上まで、普段から自由に発音できるように練習しておくとよいと思います。

Hi-Dまで出れば、アマチュアオーケストラがよく演奏する主要なレパートリーはカバーできると思います。(例:ボレロのソロの最高音域はHi-D♭。)


では、いつも2番奏者を務めるFg奏者の場合は? と言いますと、

個人的には、2番奏者もあまり変わらず、Hi-C#(Hi-D♭)までは確実に出せるようにしておくとよいと思っています。


と言いますのも、アマオケでもよく取り上げる、チャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」の終楽章はじめに、2番Fgも、フルート及び1番Fgと一緒にHi-C#を演奏する場面があるからです。


2番奏者を務める機会が多い方も、いつでも1番Fgが吹けるよう準備しておくと、この先必ず良いことがあると思います。


*初心者

楽器をはじめて半年位~1年未満では、3オクターブ超の音域を完璧に、というのはハードルが高いと思います。

まずはテノールのG(下から数えて3番目のG)までは、正しい音程かつ豊かな響きで演奏できることを目標に練習してはいかがでしょう。


ベートーヴェンの時代まで、Fgの最高音はテノールのGだったそうです。古めの楽曲はここまで出せればカバーできる、という目安になると思います。


達成できたら、その上のB♭、C…と音域を広げていけばよいと思います。


今は「初心者」の方も遠からず「経験者」になるのですから、常に音域を拡げようという意識と努力は忘れないようにしましょう。


〇楽器のコンディションにもご注意を

現在国内で新品で販売されているFgは、本来の性能面からは、Hi-C#、Hi-D位までは比較的容易に出ると思います。

一方で、練習してもなかなか高音域が思い通りに出ない、という場合もあります。

また同様に、最低音域が出にくい、という場合もあります。


このような場合は、タンポがずれている・浮いている等で息漏れが起こり、楽器本来の調子が出ていない可能性があります。


楽器が奏者の努力に応じてくれない場合は、ダブルリード楽器に強い楽器店やリペアショップなどで調整してもらうことを検討するのがよいと思います。




〇ロングトーンでアンチエイジング(?)を

ここまで書いてきて「私は演奏を楽しむために楽器を吹いている。ロングトーンなんて苦しいばかりでやりたくない。時間の無駄にしか思えない。」そんな声も聞こえてくる気がします。


確かに、ロングトーン練習も必要ない位、才能に恵まれている方もいらっしゃいます。そういう方はこのブログに書いてあることは気になさらず、好きな時に演奏したい楽曲に集中するのがよいと思います。


一方、Fgに限らずオーボエなど他の木管楽器や金管楽器も含めてですが、学生時代は”飛ぶ鳥を落とす勢い”だった名プレーヤーが、社会人になり、30代になるかならぬか、という若いうちから、目に見えて技量が衰えてしまう場合もあるようです。


学生時代は合奏練習などの機会も多く、才能あるがゆえにすぐに楽曲をマスターでき、基礎練習もあまり必要ないような器用な人達も、

社会人になり、楽器に触れる機会が相対的に少なくなると、ロングトーンなど基礎練習の習慣を持たないために呼吸筋が衰えやすく、次第に年齢に負けてしまう、というケースを結構目にしました。


ロングトーンをはじめとする基礎練習は、私のようにもはや若くないプレーヤーであれば、年齢に負けずに楽器を演奏し続けるための体力維持や増進の方法である、という点にも着目して、取り組んでいただけば、

この先も長く楽器を楽しめることにもつながると思います。

(Primary-f/向実庵 代表)



<ご案内>「デイリートレーニング集」 市民オーケストラなどのアマチュアFg奏者のご利用を想定した練習曲集です。 ロングトーン、音階、分散和音等を12の調&3オクターブ超の音域でトレーニングできます。楽曲の練習前にウォーミングアップが効率よく進められます。

筆者のような「不器用と自覚される」奏者の方におすすめいたします。

詳細は下記URL(ネットショップ向実庵)へどうぞ。 http://hrmkjts.base.ec/categories/4878050


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