投稿:舩生好幸(ファゴット愛好家・研究家)投稿:2022.6.4
(更新:2023.9.18)
(まえがき)
この文章は、2020年8月6日、ネットショップ向実庵のブログへの投稿をもとに加筆したものです。
相応に気合いを入れたブログですが、向実庵は録音用カセットテープを主力商品としており、いささか場違いなテーマの投稿だったため、SNSでの紹介等は控えておりました。
こちらPrimary-fのサイトでは「向実庵-音楽工房」として、不器用な私が足掛け30年余の演奏活動で体得した”汗と涙と苦しみ”の成果といえるノウハウや教訓等(←大げさで恐縮です)を、同じアマチュア奏者の方のため、何らかの形で還元する、というテーマも掲げております。
そこで、当ブログにも加筆して転載することといたしました。
やや長めの文章ですが、よろしければお付き合いください。
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ある程度の年月、楽器を演奏してきて一定の技量に達しますと、アマチュア奏者の方であっても、
・ソナタや小品など、何らかの独奏曲を演奏する機会や、
・管弦楽や吹奏楽といった合奏や室内楽の中で、ソロを演奏する、
など、ご自身の演奏に比較的重い責任がかかる場面を経験することになると思います。
そのような場面に遭遇すると、果たして自分の演奏が、目的や周囲からの期待に適った内容となっているか、不安に思ったり、確認したくなったりすることも多いと思います。
〇耳に聴こえる自分の演奏と周囲に聴こえる自分の演奏にはギャップがある
演奏中、自分の演奏がどのような状況かを確かめるのは案外と難しいです。
それは耳に聴こえている自分の演奏と、周囲のメンバーや客席に届いている自分の演奏には結構大きな差があるためです。
自分の耳にはよくできた演奏に聴こえても、周囲には、
・音量や表現の積極性が不足気味に感じられる
逆に、
・ヴィブラートなどが過剰で、やりすぎの演奏と感じられる
また、
・発音のタイミングが微妙に遅い/速い
・音程が上ずって聴こえる/低めに聴こえる
等のギャップが生じていることはよくあることです。
そんな場合、プロ演奏家のレッスンを受けている方なら、当該の楽曲について先生の指導を仰ぐのが一般的であり、ベターでもあると思います。
また、合奏の指揮者や指導者の先生に質問したり、アドバイスをもらうこともあると思います。
或いは、一緒に演奏に参加するメンバーから、感想や助言を求めたりもすると思います。
さらに加えて、練習中の自分の演奏を録音して聴いてみると、客観的に、聴衆の立場で自分の演奏を体感できます。
実際の演奏の様子を録音で確かめられると、周囲の助言や意見が果たして妥当なものか、合理的に判断できる材料が増えますので、納得の度合いも高まることと思います。
現在は、例えば以下のような機器で手軽に録音ができます。
〇デジタルレコーダー
性能の良い軽量小型のデジタルレコーダーが多数販売されています。
価格も、1万円前後で、WAV形式はもちろん、プロが業務で使うようなハイレゾ録音のできる製品が珍しくありません。ステレオのマイクロフォンも内蔵していて、手軽に録音することができます。
(下記画像例:TASCAM DR-05 VER3 実勢価格:1万円前後)
練習の際にこれらレコーダーで録音して、自分の演奏がどのように聞こえるのか確認し、改善すべきポイントが見つかれば早めに演奏に修正を加える、さらに習熟するよう練習を積む、等の対応をします。
製品を選ぶ際のポイントは、演奏の様子を正確に記録できる=なるべく高音質で録音できる製品を選ぶことです。
録音から自身の演奏の様子を正確に把握できなければ、最悪は判断を誤ることもありうるからです。
そのため、同じデジタルレコーダーでも、昔の電話の音声のような周波数レンジの狭いメモ録音用のICレコーダーは購入しないようにしましょう。
上記画像例のような、WAV形式=CDクオリティ(周波数特性20Hz~20kHz)もしくはそれ以上の音質で録音ができるPCMレコーダーを選んでおきましょう。
また、ファイルサイズが相対的に小さくできるmp3形式ファイルも、320kbpsなどビットレートを高くすれば、聴感上WAV形式などとほぼ同様に聴けますので、活用すると便利です。
〇スマートフォン+録音アプリ(+外部マイク)
現在はスマートフォンでも、レコーダーの代わりが務まると思います。
一例を挙げると、無料版もあるアプリ「PCM録音」を活用するとWAV形式で録音でき、音源データをSDカード等へ保存できます。
このような録音アプリを導入すると、スマートフォンがデジタルレコーダーになります。さらに、もしスマホについているマイクのスペックが物足らないようなら、演奏を忠実に収録できる外部マイクの利用も検討されればベストかと思います。
〇その他の録音機器
他にも、従来型のオーディオを愛好する奏者の方なら、
ポータブルのDATやMDレコーダー、TC-D5MやWM-D6C等のポータブル型カセットテープレコーダーに、高音質のマイクロフォンを組み合わせることで練習の録音に活用できると思います。
(ただし、カセットテープは45分や60分ごとに入れ替える必要が生じ、あまり長時間の録音には向きませんのでご注意。)
〇ポイント:録音の際に適切な「設置場所」を見つけること
録音機器を手に入れたら、練習場所の中で、なるべくきちんとした音質や楽器のバランスで録音のできる場所を見つけて、そこにレコーダーやマイクをセットして録音します。
一般に練習会場や、自宅の練習場所などはコンサートホールほど音響が理想的ではないと思います。ベストが無理でも、なるべくベターな録音のポイントを探して収録するようにします。
合奏練習を例にとると、合奏体の前側で程よく距離のある位置=指揮者席の後ろ付近がよい気がします。(その際、指揮者の先生には予め、自分の演奏の確認のため録音する旨をお話ししておくと、マナー的にもスムーズになると思います。)
また、同じポイントでも、低い位置にマイクを置くと低音が強調され、高い位置に設置すると低音が弱く収録されます。譜面台を1m程度の高さに立て、譜面立て部分を水平気味にセットし、そこにマイクないしはレコーダーを置くと概ねよいバランスになりそうです。
〇自分の演奏を聴くのが怖い、ですか?
一方で、録音した自分の演奏を聴くことに抵抗を感じる、聴くのが怖い、という方も結構いらっしゃるのかもしれません。(実は筆者もそうでした。)
ですが、冷静に考えますと、いつも周囲に(平気で)聴かせている自分の演奏を、本人が怖くて聴けない、というのも矛盾ではないでしょうか?
結局は慣れの問題です。数回聴くうちに慣れてきて、抵抗感も恐怖感もなくなりますので、最初のうちは少し我慢して聴くようにしましょう。
〇まとめ:録音を聴くことで演奏に自信や責任感を持つことへの近道に
以上書いてきたことは、以前私が市民オーケストラに参加していた際に、実際に行っていた事です。
特に、合奏練習時の録音データは他のメンバーの参考にもなるので、mp3ファイルを団体内のクローズドなネットワーク上で共有もしました。
そうすると何人もの方から
「自分のソロがどのように聴こえているのかわかって参考になる。」
「練習中、耳に聴こえる自分達の演奏と録音で聴く演奏には大きなギャップがあって驚いた。もっとしっかり練習せねば。」
といった前向きな意見がもらえました。
また、録音を聴いて自分の演奏を客観的に把握できるようになると、演奏に対する助言や意見などが、本当に妥当で価値のあるものか、(あるいは場合によっては聞き捨てるべきものか、を)正しく判断できる可能性も高まります。
それは、アマチュアであっても演奏家としてとても大切な、自分の演奏に自信そして責任感を持つことへの近道の一つになるものと思います。
(Primary-f&向実庵-音楽工房・代表)
<ご案内>
〇向実庵-音楽工房 https://www.primary-f.net/studio-kojitsu
・私共は、アマチュアオーケストラを中心とする演奏団体の皆様に、演奏会の記録や記念となる音楽CDの制作サービスをご提供いたします。
・あわせて、当店の代表が長年取り組むファゴットの演奏に関する出版・情報提供などのサービスも行っております。
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